六十五日目

「こういう料理はどちらで覚えられたんですか？」

アクエス君から飛んできたのはごく普通の、何気ない質問だった。

けれども。

「―――」

あっさりと言葉に詰まる。
その『普通の』問いに、僕は答えられなかった。

「…どうして覚えているんだろう…」
まただ。
料理、槍の扱い、日々の生活の術…全部わかっている事。
なのに『どうして』『どうやって』それを知ったのか。そこが綺麗に抜け落ちている。
こんな状態、普通であるはずがない。明らかな異常だ。
なのに、こうして誰かに気付くきっかけを与えられるまで
それが異常だとわからない…



「……もしかして、まだ思い出してない部分に？」
声を掛けられて、我に返る。
目の前に居るのはアクエス君だ。他の誰でもない。

「あ…ご、ごめん。ちょっとボンヤリしてたね」

言葉を濁す。誤魔化しにもならない誤魔化しだ。
自分が今どんな顔をしているのか、自分でもよくわからない。



僕は今―――何を見た？