十八日目

土弄りに勤しむのは久々だった。

遺跡外で、僕は修道院跡に様々な植物を植える計画を実行に移していた。
様々な苗や種の中には、僕が以前畑で育てていた野菜も中に入っている。

用意した野菜については、「先のお楽しみ」とだけ言ってある。
こういうのは花や実を付けてからわかる方が、きっと楽しいだろうから。

アクエス君の特別製植物栄養剤がきちんと作用してくれていれば
次の遺跡外に出る頃には全てに花が咲いているらしい。
探索を終えた時の楽しみが一つできた。

全てを土に埋め終わり、腰を上げて一息つく。
ふと、キアロさんが言っていた事を思い出した。

「『畑仕事は拳闘の鍛錬にもなる』　…か」

そういえば、畑での作業も3年前に比べれば随分と疲れを感じ難くなった気がする。
見た目の筋肉は…まぁ、鏡を見てお察し下さい　という程度のレベルだけど
持久力に繋がる体力くらいは、意外と養われているのだろうか。

遺跡内でそれが目覚ましい効果として現れる事は無いだろうけれども
何もかも忘れて畑仕事を続けてきた事は、探索に臨む冒険者として
全くの無駄というわけでも無かったのかもしれない。

「……戻ろう」

思考を切り上げ、いつもの修道院へ向かう。
戻れば、皆に出す食事の用意が待っている。
いつものように、いつもの通り。

僕は僕のまま、自分のすべき事をこなせばいい。
それがいつか、何かの助けに繋がる事だってあるのだから。
少しだけ背中を押してもらった後のような、そんな心持ちだった。